概要
被災地では、水不足、物品不足などの問題から、口腔ケア(歯ブラシや入れ歯の洗浄、口の粘膜の掃除、うがいなど)が困難となります。
阪神・淡路大震災では、高齢者や体の弱った方に肺炎が起こりましたが、これらの多くは、口の中の汚れ(細菌など)が唾液とともに肺の方に入ってしまうために起こる「誤嚥性肺炎」と言われています。栄養状態が悪かったり、飲み込みの状態が悪かったり(嚥下障害)すると、この誤嚥性肺炎を起こす危険性が高くなるおそれがあります。
忘れがちな口腔ケアをしっかり行う必要があります。
災害時の口腔ケアの実際
歯磨きと粘膜のケアについて
- 水(コップ半分ほど)を用意します。
- 二つのコップにわけ、片方のコップで歯ブラシを濡らし、その水で口の中を湿らせます。
- 歯磨きを繰り返しながら、こまめにもう片方のコップの水で歯ブラシを洗います。歯磨き粉がある場合は、泡の少ないものを少量使いましょう(歯磨きが終わった後に濯ぐために多めの水が必要なためです)。または、口腔内リンス剤(水歯磨き剤)があれば、それに少量浸して使いましょう。なお、嚥下障害の人では、水やリンス剤を誤嚥(気管や肺に入れてしまうこと)させないように気をつけてください。
- 最後に、残った水でうがいをします。嚥下障害などでうがいができない人の場合には、ティッシュや布(ガーゼ)などで拭いとります。
- できるだけ口の中の歯や粘膜を綺麗にするようにしてください。物品が不足している場合には、水に濡らしたティッシュペーパーやガーゼなどで拭くだけでも結構です。ただし、口の中が乾燥している場合には、強くこすると傷つきますので、やさしく拭くようにしましょう。
入れ歯(義歯)のお手入れ
- 入れ歯を口の中に入れたままにして置くと、入れ歯とあごの粘膜の間にバイ菌が増え炎症を起こすことがあります。痛みにもつながりますので、必ず外して洗うようにしましょう。そして、できれば夜間は外していましょう。
- 入れ歯専用のブラシか歯ブラシがあれば、歯磨き粉をつけずに、水で濡らした歯ブラシで磨いてください。
- 歯ブラシがない場合には、水で濡らしたガーゼやティッシュでぬぐってください。
医療職の方へ
- 口腔ケアは歯科衛生士の重要な役割ですが、歯科衛生士の数は十分とはいえません。看護師や保健師と協力し、肺炎予防には口腔ケアが重要な役割を果たすことを被災された方々に十分に説明してください。
- これまでの場合、災害時にはまず健康調査という名目で、保健師が避難所や家庭を訪問して住民の健康状況の把握を行い、この結果をもとに医療支援計画が立てられました。その際、口腔の状況を把握し、口腔ケアや治療の重要性を伝えてもらえることが大切となります。
- 自治体に対して、避難所には口腔ケアのための水場が必要であることや、大きな避難所には歯科診療チームの配置が必要なことなどを伝えてください。
- 乳幼児や高齢者、障害者では、食べ物や飲み物への配慮も必要です。乳幼児にはミルクや離乳食の補充が、嚥下障害が認められる高齢者や障害者には嚥下しやすい食品が求められます。義歯がない人には食べられないものが多く、義歯があっても硬くて冷えた食べ物は食べにくくなります。
参考
神戸常盤大学短期大学部口腔保健学科
足立了平:東北地方太平洋沖地震-口腔保健の重要性について
HDCネット http://www.e-shika.org/2.html
平成19年度~21年度 厚生労働科学研究
「大規模災害時における歯科保健医療の健康危機管理体制の構築に関する研究」
研究代表者中久木 康一
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・顎顔面外科学
日本歯科大学
附属病院 口腔介護・リハビリテーションセンター
大学院生命歯学研究科 臨床口腔機能学
菊谷 武